邦題タイトルにもなっているアマゾン、ウーバー。
ともに日本でもその現場で働く人にとっては過酷な環境であることは伝えられています。
※ウーバーは日本では規制の関係でサービス開始されておらず現在(2020.7.27時点)ではウーバーイーツのみサービスが実装されています。
著者はイギリス在住のノンフィクションライター。
実際にアマゾンの倉庫、介護の現場、コールセンター、ウーバーの配車サービスと仕事を体験しその過酷さをルポにまとめています。
本書の特徴としては、各業務の過酷さもさることながら、なぜイギリスにおいてそのような働き方が広まっているのか?どのような立場の人が実際に働いているのか?移民の問題、EU加盟との関係性、イギリスに根強く残る階級の問題、中流未満といわれているイギリス国民がどのように考えているのかについて大幅な紙面が割かれています。
印象的であったのはAmazonとウーバーという2大テクノロジー企業。
アマゾンは日本ではGAFAと呼称される先端企業の一角を担う。
一方のUberは日本ではUber Eatsしかサービス開始していないものの世界的にとても勢いのある企業です。
日本においてもコロナ禍の中で非常に存在感を高めています。
アマゾンの倉庫ではスタッフの動きをテクノロジーの技術を活用し徹底的に管理し、動きの鈍いスタッフには減点を与える。
そして減点が貯まれば契約更新はされずにお払い箱にされるというものです。
一方のUberは従業員(※あえて従業員と記載します)を雇用せずに業務委託という形を採用しています。
業務委託という形をとることでUber側は企業が人を雇用する際に発生する様々な義務から解放されます。
こうして従業員を徹底的に安く使い収益を最大化させます。
従業員は業務委託なので、一人一人が社長であり、自分という企業の代表者であるとUber側に鼓舞されて働きますが、実際には、アプリのONOFF以外に自由は無いと筆者は断じています。
そして、このような劣悪な環境にありながらもイギリスにおいて途切れることなく働き手が供給されているという現実です。
※この問題は日本のUberEatsに関しても同じだと思います。
たまたま直近ではコロナ禍の影響でUberEatsの調子が良いのでこの議論は下火になっていますが。
それほどイギリスにおいては中流階級という存在が崩壊しており、上流と下流という分断が起きているというのが本書全体を通して語られており、それは日本にも通じる流れではないかと思うとぞっとする内容となっています。
社会の分断、将来(もしかしたら既に現在)の日本の姿、なぜどれだけ悪評が立とうとも過酷な労働現場に働き手が供給されるのか、イギリスの一面を感じ取りたいかたは一読をおすすめします。
著者プロフィール
ジェームズ・ブラッドワース
英国人ジャーナリスト。現地で影響力のある左翼系ウェブサイト『LeftFootForward』の元編集者。大手紙インディペンデントやガーディアン、ウォール・ストリートジャーナル等にコラムを寄稿。
濱野大道
翻訳家。ロンドン大学・東洋アフリカ学院(SOAS)同大学修了。訳書に『民主主義の死に方』『津波の霊たち』などがある。
目次
はじめに
第一章 アマゾン
ルーマニア人労働者
懲罰ポイント
人間の否定
炭鉱とともに繁栄を失った町
ワンクリックの向こう側
第二章 訪問看護
介護業界の群を抜く離職率
観光客とホームレスの町
介護は金のなる木
ディスカウント・ストアの急伸
貧困層を狙うゲストハウス
第三章 コールセンター
ウェールズ
「楽しさ」というスローガン
古き良き時代を生きた炭鉱夫たち
生産性至上主義
世界を均質化する資本
第四章 ウーバー
ギグ・エコノミーという搾取
単純な採用試験
「自由」の欺瞞
価格競争で失われる尊厳
労働者の権利と自主性
エピローグ